「いのちのうた」(まど・みちお)

「自己有用感」や「自己肯定感」

「いのちのうた」
(まど・みちお)ハルキ文庫

 そうさん
 ぞうさん
 おはなが ながいのね
  そうよ
  かあさんも ながいのよ
      (「ぞうさん」)

童謡でおなじみですが、
まど・みちおにはほかにも
動物を題材にした詩があります。

 うさぎに うまれて
 うれしい うさぎ
 はねても
 はねても
 はねても
 はねても
 うさぎで なくなりゃしない
      (「うさぎ」)

 はるが きて
 めが さめて
 くまさん ぼんやり かんがえた
 ええと ぼくは だれだっけ
 みずに うつった
 いいかお みて
 そうだ ぼくは くまだった
 よかったな
      (「くまさん」)

それぞれを単独で読むと
気付きにくいのですが、
そこにはしっかりと「自己有用感」や
「自己肯定感」が織り込まれています。
「ぞうさん」には、
ゾウの特徴である「鼻が長いこと」を
当たり前のこととして、
そしてそれがゾウとしての
証であるかのように
詠み上げられているのです。
「うさぎ」も「はねる」という特徴を
持って生まれたことに
喜びを見いだしている様子が
表されています。
「くまさん」のクマは、
冬眠から目覚めて
自分がクマであることを
確認できた喜びに満ちています。

もちろん自然界のゾウやウサギやクマが
そうした感覚を持つわけでは
ないでしょう。
これらの詩は、自然界の生物たちが、
あるがままに存在していることに
素晴らしさを感じた詩人の、
心のままを表現しているものなのです。

詩人の温かな視線は、
けものたちだけではなく、
もっと小さな生きものたちの上にも
注がれています。

 ナマコは だまっている
 でも
 「ぼく ナマコだよ」って
 いってるみたい
 ナマコの かたちで
 いっしょうけんめいに…
      (「ナマコ」)

こうした詩にふれる度に、
人間の世界はなぜこのように
うまくはいかないのかと
暗然たる気持ちにさせられます。
ありのままの自分を
ありのままに受け入れられれば
どんなにか幸せだろうと思うのです。

教育現場でよく話題になるのが、
子どもたちの「自己有用感」や
「自己肯定感」の低さです。
現代の子どもたちはなかなか自分に
自信が持てないのです。

生きにくい世の中に生きている
子どもたちに薦めたい一冊です。
もちろん大人が読んでも
幸せな気持ちになれます。

(2019.8.4)

akizouさんによる写真ACからの写真

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